2013/12/01

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ウイスキーの貯蔵樽になるオークの木が育つ、北海道の原生林を歩いたことがあ
る。
直径1メートル、高さが25メートルになる樹齢300年近いジャパニーズオーク、ミ
ズナラの木の下に立った時、私は何か崇高なものを感じた。通直 に、つまり
真っ直ぐに伸びた姿は威厳があり、畏敬の念を抱いた。そして美しく凛々しく、
眺めていて飽きるということがない。

オーク。正確にはミズナラ、コナラ、ナラガシワといったコナラ属の木で、英語
でオークと呼ぶ。日本では明治時代に樫(カシ)と誤訳され、それが一 般化し
てしまい、いまでも樫と思っている人たちも多いが、正しくは楢(ナラ)である。

以前にも述べたことがあるが、楢という字は長を意味する"酋(おさ)"の木と書
く。楢はまさに木の王なのだ。私が畏敬の念を抱いたのは不思議なこ とではない。

地域によって自然環境が異なり、成長度合いに違いがあるから明確にはいえない
が、ウイスキーの貯蔵熟成につかわれる木はそれでも樹齢100年以上 のものにな
る。とても尊い木なのだ。
ほら、もうひとつ気づいたことがあるはずだ。そう、樽という字は尊い木と書
く。酋(おさ)の木である楢(ナラ)はとても尊い木で、それが樽とな る、と
言われてみれば非常にわかりやすい。

ではカスク(Cask)。これは樽のこと。シングルカスクとは、たったひつの樽の
こと。
ひとりの男を紹介しよう。仲沢一郎氏。サントリー山崎蒸溜所のブレンダーだ。
彼の担当は山崎や白州のシングルカスクシリーズ。ウイスキーファンの 中でも
マニアの領域に入るものだが、非常に人気が高い。

夏の暑い日、私はシングルカスクシリーズの製品化の候補となる原酒のサンプリ
ングをする仲沢氏に付き合ったのだが、いろいろな場面で驚きの連続 だった。

通常ブレンダー室でテイスティンググラスを手にして原酒を官能している姿と
は、あまりにもかけ離れている。シングルカスクを選び抜く仕事は意外に も過
酷なもので、かなりの重労働なのだ。青いジャンプスーツを着ておこなうのだ
が、その背中は汗がたっぷりと染み込んで、まったくもって男の世界 だった。

ここでシングルカスクについて簡単に説明しておく。
まずシングルモルトというのがある。これはひとつの蒸溜所、たとえば山崎蒸溜
所でつくられたモルト原酒の中から厳選したものだけをヴァッティング (混
和)したもので、山崎蒸溜所の個性を伝えるフラッグシップ的なウイスキーだ。
だから山崎らしい個性を放つ何タイプかの原酒、いくつもの樽で熟 成した原酒
が使われる。

ではシングルカスクとは。これはまったくひとつの樽の香味であるから、その樽
そのもの、唯一の個性、熟成感を愉しむものだ。それゆえボトリングし て製品
化される数量は限られている。
シングルカスクとして世に送り出されるものは、実験的なつくり込みをおこなっ
たもの、あるいは非常に稀な熟成をしたものが選ばれる。

仲沢氏は製品化するシングルカスクを選び、見守る仕事をつづけている。貯蔵庫
へ出かけ、ひと樽、ひと樽サンプルを採り、ブレンダー室へと持ち帰り テイス
ティングする。
そしてひとつひとつのデータをコンピュータに入力していく。
「長くやっていますとね、それぞれの原酒の何年後かの熟成の姿が大体わかって
くるものです」
仲沢氏はこう言う。

尊い木の中で熟成する原酒は、貯蔵環境によって香味はそれぞれに異なる。貯蔵
庫の場所、庫内に置かれる位置、またスパニッシュオーク、アメリカン オー
ク、ジャパニーズオークのミズナラといった材質の違い、樽の大きさや形状に
よっても熟成は違う。
それらを常にチェックし、データ化する。そのデータと経験値によって熟成の未
来像が見えてくるのだ。

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- ウイスキーづくりの職人 第1回 ブレンダーの知られざる姿 [ウイスキー&
バー] All About
http://allabout.co.jp/gm/gc/220433/